ドローン赤外線診断の法規制と最新基準

1. はじめに|赤外線ドローン診断の注目度が高まる理由

近年、老朽化したインフラや建築物の増加に伴い、効率的かつ安全な点検技術への関心が急速に高まっています。とりわけ注目されているのが「ドローン赤外線診断」です。ドローンに搭載された赤外線カメラにより、地上からでは把握しにくい外壁や屋根の異常を可視化でき、非接触での検査が可能となります。

従来の打診検査や足場設置を伴う調査と比較して、コスト削減・作業の省力化・作業員の安全確保といった多くのメリットがあり、公共施設から民間建物まで幅広く活用が広がっています。

2. 赤外線ドローンとは?基本機能と活用シーン

赤外線ドローンとは、赤外線センサーを搭載した無人航空機(UAV)のことを指します。赤外線カメラは物体の温度差を検出する仕組みで、温度の異常を色の変化として表示します。

これにより、以下のようなシーンで異常の早期発見が可能になります。

  • 外壁診断:タイル浮きや剥離箇所の発見
  • 太陽光パネル点検:発熱セル(ホットスポット)の確認
  • 屋根・屋上の防水層点検:雨水侵入箇所の特定
  • 配電設備・機械室の温度異常チェック

これまで人が近づけなかった高所や危険エリアでも、短時間で高精度な診断ができる点が、導入の決め手となっています。

3. 関連法規制の全体像|ドローン飛行+赤外線診断の両面から

赤外線ドローンの運用には、以下のように複数の法規制が関係してきます。正しく理解し、遵守しなければ違法行為となる恐れもあるため注意が必要です。

● 航空法(国土交通省)

  • 飛行場所(空港周辺・市街地・夜間・目視外飛行など)によっては国交省への許可申請が必要。
  • 重量100g以上のドローンは、2022年より登録義務化。

● 建築基準法・労働安全衛生法

  • 建物の検査・調査にあたっては、建築物の使用制限や作業員の安全配慮義務も発生する可能性がある。

● プライバシー保護法

  • 赤外線カメラで人物や私有地を不当に撮影すると、プライバシー侵害に該当することも。

これらの法規制はドローン側・診断側の両方に関わるため、単に飛ばせばよいという認識では不十分です。

4. 最新の制度と基準(2024〜2025年版)

2024年以降、赤外線ドローンに関するルールやガイドラインはより具体的・厳格化の傾向にあります。

● 国交省の「無人航空機による点検のガイドライン」

  • 国交省はインフラ点検や建築物点検へのドローン活用推進を明言。
  • 点検方法、報告書の標準化、撮影角度や距離、解析方法まで基準化。

● JIS(日本産業規格)動向

  • **JIS Q 17020(点検機関の認定基準)JIS B 9725(赤外線装置)**との整合性が求められるケースも。

● 自治体や公共事業での実務基準

  • 地方自治体の公共入札案件で「赤外線ドローンによる外壁調査」が指定条件になりつつある。
  • 点検実績や操縦者の有資格を求められる場合もある。

5. 操作・測定に必要な資格と技能要件

ドローン赤外線診断は、高度な操縦技術と測定スキルの両方が求められます。必要とされる資格・技能は次の通りです。

● 無人航空機操縦に関する資格

  • 国交省指定の国家資格:一等・二等無人航空機操縦士(国家ライセンス)
  • 民間講習団体の技能認定:JUIDA、DPA、UTCなど

● 赤外線診断に関する資格

  • 赤外線建物診断技能師(一般社団法人赤外線建物診断技能師協会)
  • サーモグラファーLevel 1〜3(FLIR教育)

● 登録事業者としての体制整備

  • 電気工事業者登録建設業の許可と組み合わせた形での運用が現実的です。

6. 実務における注意点とコンプライアンス対応

実際に赤外線ドローンを活用する際には、以下のような実務面の対応が重要になります。

  • 飛行許可・承認申請:DIPSシステムを活用した申請書作成・提出が必要
  • 測定計画の事前説明・合意形成:マンションなどでは管理組合との調整も必須
  • データ管理と報告書整備:撮影画像の保管、報告書フォーマットの標準化が求められる
  • 法改正対応の体制:制度変更への柔軟な対応(ガイドラインや航空法改正)も継続的に必要

点検後のデータ取扱いに関しては、個人情報や建築物の機密情報が含まれる場合もあるため、情報セキュリティの確保も不可欠です。

7. まとめ|今後の展望と導入検討のポイント

ドローン赤外線診断は、今後のインフラメンテナンスや老朽化対策における中核技術のひとつとなるでしょう。技術の進歩とともに、法規制やガイドラインも進化しつつあります。

導入検討の際には、以下の3点を押さえておくことが鍵です。

  1. 関連法規制を熟知し、適切な飛行計画を立てること
  2. 資格取得やチーム体制整備など、スキル・組織面の準備を進めること
  3. 最新の制度動向・自治体の要件をウォッチし続けること

ドローンを“飛ばすだけ”でなく、“安全に・正しく・法的に問題なく使う”ことが、真の技術活用に直結する時代です。