赤外線診断のデータ活用法とレポート作成のポイント

目次
はじめに
赤外線診断とは何か?
赤外線診断とは、赤外線サーモグラフィカメラを用いて、物体の表面温度分布を可視化し、建物や設備の異常や劣化を非破壊で検出する技術です。
建築・設備分野で注目される理由
外壁タイルの浮き、断熱材の欠損、電気設備の異常発熱など、肉眼では捉えにくい問題を早期に発見できるため、保全・修繕コストの削減や事故予防に貢献します。
診断結果を“活かす”ための視点
単にデータを取得するだけでなく、的確に分析し、改善提案につなげることが重要です。特に報告書の質が、顧客の信頼獲得と再依頼につながります。
第1章:赤外線診断の基礎知識
赤外線カメラの仕組みと原理
物体は温度に応じて赤外線を放射しています。赤外線カメラはこの放射エネルギーを受信し、温度分布をサーモグラフィとして可視化します。
可視化できる劣化現象の例
- 外壁タイルの浮き・剥離
- 断熱材の欠損や気流の侵入
- 漏水の痕跡
- 電気設備の異常発熱(漏電・過負荷)
調査方法と実施上の注意点
- 天候や日射条件の影響を受けやすいため、撮影時刻や方位に注意
- 表面の反射による誤読を防ぐため、角度や背景の工夫が必要
第2章:データ取得から分析までの流れ
撮影前の準備とチェックリスト
- 対象範囲と診断目的の明確化
- 使用機器の校正と設定確認
- 外気温や湿度などの環境情報記録
撮影条件の記録と補正の重要性
環境条件を正しく記録し、解析時に反映させることで誤診を防ぎます。放射率設定や反射補正も欠かせません。
解析ソフトによるデータ評価
専用ソフトで画像の温度差、ヒートパターンの傾向を解析。異常温度域を抽出し、数値化します。
定量評価と定性評価の組み合わせ
温度差などの数値による定量評価に加え、実際の症状と照らし合わせた定性的判断が信頼性を高めます。
第3章:赤外線データの活用法
- 建物診断:外壁や屋根の浮き、漏水箇所を早期発見し、長寿命化に貢献
- 省エネ診断:断熱材の欠損や気密不良を特定し、省エネ改修につなげる
- 設備保守:電気盤や配線の異常発熱を検出し、火災予防に役立つ
- アフター工事確認:補修工事後の状態を視覚的に確認し、品質保証にも活用
第4章:診断レポート作成のポイント
写真添付と温度スケールの使い方
サーモ画像には必ず温度スケールを添付し、診断対象の温度分布を明確に示します。
不具合部位のマーキングと簡潔な解説
異常箇所には枠や矢印で明示し、簡潔に問題の内容・原因を記述。図面への位置表示も有効です。
誤解を招かない表現・用語選定
「可能性がある」「兆候が見られる」といった表現で、断定を避けながらも具体的に説明します。
推奨されるレポート構成
- 調査概要(日時、対象、使用機器など)
- 調査結果(所見・画像)
- 考察と推奨対応策
- 添付資料(図面、画像、温度分布など)
第5章:実務に活かす運用のコツ
- 社内共有:社内ミーティングで画像を共有し、改善に活かす
- 顧客説明:視覚的にわかりやすいため、非専門家への説明資料として有効
- 改善提案と追跡調査:指摘事項の対策後に再診断し、効果を確認
- データ蓄積によるPDCA:年次比較による劣化の傾向把握と予防保全へ
- 法令との関連:特定建築物の定期報告や外壁調査指針への対応にも利用可能
第6章:トラブル事例と注意点
- 誤診のリスク:太陽光反射や風の影響による誤読
- 過信による見逃し:表面に現れない深部劣化を見落とすケース
- 法的トラブル回避:報告書には過度な断定を避け、中立的かつ客観的な表現を心掛ける
まとめ
赤外線診断は、「分析力」と「説明力」の両方が問われる技術です。適切なデータ取得とわかりやすいレポート作成を通じて、顧客との信頼関係を築き、建物の価値維持に貢献することができます。単なる調査報告にとどまらず、“次につながる診断”を目指すことが今後の鍵となるでしょう。